小学生の頃は夏になると暇さえあれば近くの川に釣りに行っていた。



 近くと行っても、自転車で30分以上はかかる。



 当時はやっていたイルミネーション付きでリトラクタブルライトの12段変速の自転車なら楽に行ける距離かもしれないけど、6つ上の姉貴のお下がりの古ぼけたミニサイクルではいくらベダルを漕いでもなかなか進まなくてかなり遠い道程に思えた。



 でも学校がある日でも、忘れた漢字の宿題を居残りでさせられた後でも、友達を誘っては、「誰がいっぱい釣れるか」とか釣れない時は「誰が先に釣るか」とかみんな他愛の無い競争心を剥きだしにしながら、日が暮れてウキが見えなくなるまで釣りをしていた。




 しかし、小学校卒業と同時にあれほどハマっていた釣りをまったくしなくなった。
 いつも行ってた仲間と離れたからかもしれない。




 それから社会人になってアウトドアブームの時にフライフィッシングを覚えてまた釣りをするようになった。




   免許を取ったので移動は自転車から車になり、子供の時から比べるとより遠くに釣りに行けた。




 知らない場所でもGPSを使って野池を探し、他に誰も釣りをしている人が居ないような穴場を見つけた時は大喜びだった。

 けれどそんな事はみんなやっているのか、次の週に同じ場所に行くと釣り人が多くいてガッカリすることも少なくなかった。



 めげずに車の機動力を生かし、よりと遠くへ、見知らぬ場所へと釣り場探しに明け暮れたけど、結局はすぐにいける近所の野池がホームポジションになって、そこに良く出掛けるようになった。


  そして、最初の子が生まれてからは、また釣りには行かなくなってしまった。


 近2人目の子供ができて妻の出産が間近になると、家にある車が1台では不便ということで、マイクロカーを買った。



 一応車なのだけど、自動車というよりはキャノピー付きの4輪スクーターという感じだ。



 マイクロカーを買う前は、雨の日や雪の日に水浸しになったり、風で飛ばされないかと不安でいっぱいだったけど、実際に買って乗ってみたらそんな心配は無用だった。




 初めて運転した時は「こんなゴーカートみたいな、心もとない車が毎日の通勤に使えるだろうか?遅いしウルサイし」とかなり心配したけれど、車じゃ無くてスクータと割り切れば、なんの問題もなかった。



 実際、かなりの雨の日でも幌をつければほとんど車内に水は入らないし、雪の日も凍えるくらい寒いけどエンジンはすぐに掛かるし、厚着をすれば寒くない。



 スクータよりはるかに快適だ。



 今年初めての夏をむかえるが、きっと大丈夫だと思う。 ・・・・・






 夏。  ふと、マイクロカーに釣竿を積んで海に出掛けたくなった。





 野池もいいけど、自転車よりも遠くに行きたい。この下駄車にのって。




使っていた道具を引っ張り出して、自作のキャリアボックスに詰め込む。



  イレクターパイプとクーラーボックスで発作的に作ったキャリアボックスだけど、その断熱性のおかげでコンビニ弁当は冷めにくいし、保冷剤をいれてジュースも冷やせる。



  もちろん、ここには釣り道具も入る。




 昼飯の準備もして出かけることにした。 足りないものは気づいた時にコンビニと釣り具屋で買い足せば良い。






 マイクロカーはスポーツカーだと思うことがある。




低い目線、ミッドシップエンジン、ショートホィールベースで、タイトなハンドリング・・・・。




  エンジンも足回りも貧弱だけど100%力を使い切って走らないと一般道の流れに付いて行けない。




 速く走るためには集中力が必要な車である。



 だから何げない通勤でも買い物でも楽しい。


 運転することが楽しくなる。


 振動がすごくても、車内がうるさくてもかまわない。



 これはスポーツカーだから。





  でも、始めからマイクロカーがスポーツカーに思えたわけではなかった。
 

   やはり、大ちゃんバーを搭載してからマイクロカーの印象が変わったと思う。



  ガンガン回してドンドン進む。



苦手な坂道も極端に速度を落とさずに登ることができる。




 シンデレラのガラスの靴のように、マイクロカーのガラスの靴。





リスクと引き換えにノーマルには無い力を手に入れられる魔法の靴。







 この靴を履きこなすには、自分でシリンダーやピストン、駆動系の交換を自分でメンテできるスキルがないとキツイかもしれない。


























 りに夢中になっている間にいつの間にか海についた。





  急いで釣竿を出したいところだけど、グッと我慢する。




  まずは昼飯の下ごしらえをせねば。 米を研ぎ、水を張っておく。


 魚や餌をいじったあとでは汚いからね。




  本当なら釣った魚を料理したいところだけど、マイクロカーのキャリアボックスにはもって行ける道具にも限りがあるし、魚料理は結構水を使うので大変なのだ。




 やらなければならない下ごしらえはこれだけ。 あとは釣りに没頭するだけ。



 の辺の海はカレイやハゼが良く釣れる。




いつもはルアーや、フライフィッシングなのでアグレッシブにポイントを変えて釣るけれど、今日は餌釣りなので魚まかせの気楽な釣りだ。




  魚が釣れるまでのんびりと本を読んだりラジオを聞いたりして過ごそう。 とは言っても、隣の釣り人が釣れているか非常に気になる。釣師の性か。




 しかし餌もこんなにたくさんあると、使い切れる自信が無い。




まあ今日は釣りよりもマイクロカーでドライブしてゆったりとした時間を過ごすのが目的なので良しとしよう。




のんびりしていると、あっと言う間にお昼の時間になる。 ふだんならコンビニ弁当をパクつくところだけど、今日はいろいろともってきた。




  ウトドアでは料理自体も楽しみのひとつになる。




オープンエアで料理をする行為は人間の古い脳の部分がひそかに興奮する出来事で非日常的なシュチエーションが快感となる気がする。
というか、理屈抜きにこれは楽しい。




外で食べるというだけで、どんなに下手な料理でも自然のおいしいスパイスが効いてくる。




一番簡単なのはスパゲッティかな。




  パスタをゆでてソースを温めればすぐにできるから。



洗い物が少なくて良い料理のほうが、その分他のことに時間がさけて良いと思う。




 今回は 、レトルトのハンバーグとウインナーにご飯の組み合わせにした。




 最初にご飯を炊く。




 これは蒸らす時間が必要だから。




  強火で沸騰するまで加熱したら水気がなくなるまで中火で。



おこげが欲しかったら、最後にちょっと強火で加熱し、ひっくりかえして蒸らす。








 次にレトルトのハンバーグを温めて、お湯が沸騰したらそのままで放置。これでハンバーグは冷めない。



























そして、ウインナーを炒めて完成。










食べながらパーコレーターに水とコーヒーを入れ加熱する。  


パーコレータはポコポコ言いながら飴色の水が踊っている。



あたりにはコーヒーの良い香りがたちこめる。パーコレータの中のコーヒーが薄い飴色から濃い飴色に変わると飲み頃になる。




 パーコレータで作るコーヒーは香りに関してはドリップにはかなわないものの、コーヒーの味がなんとなく角の丸い優しい感じになる。


 料理自体はファミレスメニューだけど、とても満足のいくものだった。








食事が終われば後は好きなだけ釣りの時間。






波と風の音だけの静かな景色に溶け込んでいくマイクロカーの存在。


周りの時間は別な国に迷い込んだかのようにゆっくりと過ぎて行く。