

家庭における父親の存在を知らしめる時とはどんな時であろうか。
部屋の電球を交換するときか?買ってきたばかりのTVのチャンネルを設定するときか?
いやいや、そんな仕事は父親の存在を知らしめる仕事とは言えない。
まず父親とは、屈強で絶対的な力を秘めておらねばいけないのだ。
そうなると日本国民の多くが真っ先に思いつくのは「コイン精米をしに行く時」と答えるだろう。
たぶんタウンミーティングで同じような質問を1質問5000円でさせなくても、この結果に成るはずだ。
理由は簡単。
米が重いからである。
以前は自主流通米のうち、計画外流通米は農家から直接一般家庭に販売されていたがすでに形骸化されており自由に流通しているのが現状である。
この場合、大抵30kgを1袋として扱い、「あ〜、××さん?お米2袋ない?あー、ある?じゃ持ってきて」とかなり速やかに商談が成立し、農家の軽トラが軒先まで配送してくれるのである。
さらにウチの店(ばーちゃんの美容室)の場合、なんと「米払い」が可能である。
通常、金券やビール券、最近は見かけなくなったテレフォンカード、図書券からその主役の座を奪った図書カード、はては切手にいたるまで「支払方法」として受け付けるショップは数多くあるが、ウチの店ではばーちゃんの一存で「米による支払が可能」なのである。
米は元来、その貯蔵性と計量性の良さから物々交換の基準とされるほど人々の生活に密着していた。
起源は今から7000〜10000年まえの中国揚子江であるという説もあり、日本で多く消費されるジャポニカ米は中国江南地方を起源としている。
日本には縄文末期に伝わってきたとされており、弥生時代ですでにお米=お金の概念が出来ていたということだ。
21世紀の現在、うちの店では弥生時代の常識が通用しているのである。
これは正に温故知新にも程があるのだが、ばーちゃんが良いって言っているんだからしょうがない。
さて、父親の威厳からかなり飛躍してしまったが、話を元に戻そう。
とにかく重たいこの米袋。30kgとは思えない。
きっとお百姓さんの想いや夢や希望が1粒1粒に詰まっているから重いんだね、「想い=重い」なんだねお百姓さん!とお百姓さんに感謝しつつ、K−3に米袋を詰め込む。
これまでは、MC−1でコイン精米に行っていたのだがMC−1ではかなり辛かった。
なにせ置き場所がないのである。
幌を付けた状態で、イスと幌の隙間に無理矢理詰め込んで走っていた。
もし、幌のホックが「プチン!」と逝ったら、道路に米をぶちまける結果となる。
想像して欲しい。
時速50キロの速度で走っているマイクロカーから米がぶちまけられるのだ。
その米は路面を激しくバウンドし転がって扇状に広がっていく。
その時偶然にも後続車がいたらどうだろうか?
慌ててブレーキを踏むドライバー、しかし、米粒がタイヤの溝にハマっていき、路面にある米との摩擦係数は限りなく0になる。
そう米自身がコロの役割を担ってしまい、まるでボールベアリングのような効果が出てしまうのだ。
こうなると、車はドライバーの意志とは関係なくなり正に走る凶器になりえる。
コントロールを失った車が、対向車線にあるガソリンスタンドに飛び込み給油中のタンクローリーに激突したら周辺は地獄絵図である。
私がMC−1で「コイン精米に行きたいな♪」という、取るに足らない行動がこのような結果を招くおそれがあるのが現実なのだ。
こうなると、もう、恐くてMC−1のハンドルなどは握れない。せっかく中古のミニカダンガンのハンドルにして、「なんてスポーティ!うふ♪」とハニかんでいられないのである。
それにくらべて、K−3はどうか?
K−3の運転席の隣には広大なキャリングスペースが存在する。
その広さを例えると、東京ドームの1/93510である。
ちょっと判らないので身近な例で言うならば私の手のひら10枚分である。
果たして手のひらを「枚」でカウントしていいのか?という疑問はあるけどまあ、そのくらいの大きさなのであった。
ここへおもむろに米袋を置く。
するとどうだ。すっぽりと収まるのである。

おそらくK−3を設計する上で、光岡自動車横野工場マイクロ課室内において、光岡進会長と松浦さんの間でこんな会話があったはずだ。
以下、その会話を勝手に推測してみる。
松浦さん(以下ま)「会長、マイクロカーのアニバーサリー的な最終型モデルType−Fの図面が出来ました」
と言って、CADで作成したType−Fの三面図を会長に提示する。
松浦の前には作業着姿の会長が座っていた。
いつものにこやかな表情から一変して、鋭いまなざしで図面に見入る。
その目つきは完全に技術者の眼光を放っていた。
会長(以下か)「松浦くん、今度のマイクロカーはセンターにハンドルを配置してずいぶんとエンジンがオフセットした位置にくるんだね」
ま「車の中心に人の目線がくることによる、操縦時の一体感を高められるようにしました。今度のマイクロカーはスポーツ志向ですので」
か「・・・なるほど。」
光岡会長はメガネを外し、軽く右手の親指と人差し指で両方の瞼を押しながら、ゆっくりと質問した。
か「松浦君。日本とはどういう国だと思う?」
ま「は?・・・どういう国という質問は答えが多すぎて絞り切れませんが・・。」
と困惑する松浦。
時間は午後9時を少し回った頃だった。季節は初夏で窓越しにカエルの鳴き声が近くに聞こえる。
か「日本はね、瑞穂の国とも言われている。」
ま「はあ・・・。」
会長の真意を一生懸命に探ろうとする松浦であった。それに構わず会長は続けた。
か「私がZERO−1のTYPE−Fを造った時は日本のスポーツカーのあるべき姿を考えた。それはヨーロッパのスポーツカーとは違った、この国に根付き、芽を息吹くようなスポーツカーのあるべき姿だ」
ま「・・・そうですね。」
と松浦は同意した。
か「和製スポーツカーではない、日本のスポーツカーなのだ。もっと日本人のDNAに訴えかけるような、」
会長の言葉に力が入る。
そして会長は続けた。
か「瑞穂の国であるこの日本の公道を走る上で、米袋が詰めないマイクロカーであって良いだろうか?」
ま「・・・はぁ?」
思わず松浦の語尾が1オクターブ上がる。
ま「えー、あの、んと、その・・・」
と思わず松浦の語尾も濁る。
会長はなぜか「してやったり」という感じで、あの独特のニカッっと笑う少年のような笑顔でこういった。
か「米袋だよ。松浦くん。是非ともType−Fには米袋を載せられるようにしたい。私がMC−1やコンボイ88で望んだが妻の幸子はダメだと言って取り合ってもくれなかった。でも今度は最後のマイクロカーなのだ。だから米袋を積めなければダメなのだ!」
会長の声に圧倒される松浦。しかし、会長の熱意あるマナコとその迫力に押されてしまった、、、
ま「で、では会長、デザイン的にカーゴボックスなどの取り付けは不可能ですのでハンドルを右側にオフセットし、左側に米袋を載せられるようにいたしますか?」
か「いや、それではコイン精米に車を横付けしたときに米袋の積み下ろしにワンクッション入ってしまう。ドライバーが左に乗って、右側は米袋スペースにしたい。そうすればコイン精米に車を横付けしたときに入り口のすぐ前に米袋がくる」
ま「・・・なるほど」
松浦は驚嘆した。やっぱりこの人は恒にマイクロカーを考えている人だ・・・。
か「全高も800以内に納めてくれ。フロアーは出来るだけ低い方が良い。人が重量物を持ち上げるときに体と荷物の間が離れていると腰に負担がかかる。体の近くで積み下ろしができるように配慮してほしい」
ま「判りました!いまから設計をやり直します!」
か「既存の部品を上手く流用してこのボディを造るのは非常に難しいことは判っている。だが、キミはそれが出来るだけの能力があると私は信じている。頑張ってくれ」
と渇を入れる会長。
ま「はい!やってみます!」
と力強く松浦は答えたのだった。
それから数ヶ月後、関係部署の驚異的な作業進捗によって黒いコルゲートボディの試作Type−Fが造られる。
コンソールパネルからは無数のハーネスが伸びその車が現在調整されていることが判る。
会長はその運転席に深々と腰掛け、隣に妻、幸子を立たせ満面の笑みで「まだ夢の途中」という自筆の言葉を綴った年賀状の写真を撮るのであった。
時速6xキロ、で疾走する間こんな妄想をしていた。

隣にあるのが米袋ではなく毛足の長いアフガンハウンドとかだと絵になるのになぁ。
米袋は静かに風に打たれているままであった。
でもってあっと言う間にコイン精米所についちゃったよ。
私の住む地区にはこんなコイン精米所が何十カ所も存在する。
しかし、綺麗に掃除しているところが少ない。

ヒドイ所になるとお米の投入口に蜘蛛の巣が貼ってあるところもある。
これまでは近所のほんの50mも離れていないような所に行ってたのだが、あまりに汚いので別な所にした。
とはいっても1kmも離れていない所だけど。
コイン精米所は10kgの玄米を100円で精米してくれる。
30kgなら300円。
お米を投入して、100円を3枚入れて精米の度合いのボタンを選択する。これで精米開始。

あとはストッカーに精米された白米が貯まっていくので溢れないように小出しに袋に詰めていく。
このとき注意しないといけないのは、100円玉しか受け付けてくれない機械が多い(っていうかこれしか見たこと無い)ので500円玉しかないときとか、お札しかないときには大変だ。
まずはその辺でジュースでも買ってから精米しないといけない。
精米中は本当に暇だ。
まったくやることないからね。
ただひたすら機械が精米を終えるのを待つばかり。
このときばかりは機械がエライのだ。
今回のお米は平成18年産の水稲うるち玄米、銘柄は福島県産コシヒカリで北山一郎さんのトコで収穫されたものだ。北山さん、美味しいお米を有り難う♪
ようやく精米を終えると、だいぶ米袋が軽くなっているのに気付く。
お百姓さんの思いは米糠にも入っているのね。

この米糠は無料で持って帰って良いことになっているけど、使い道がイマイチ判らないので持ち帰ったことはない。
なにか画期的な使い方でもあれば持って帰るけど、唐揚げやエビフライの衣の替わりになるらしい。
軽くなった米袋をK−3に積み直す。
父親の威厳を充分保てた仕事をこなせたと思う。
息子よ、父の背中を見て健やかに育て。
明日は生ゴミの日だな。はふ。
※文中の登場人物の会話は架空のモノであり、現実の団体・会社・個人とは一切関係ありません。ちなみに「※」記号は「こめ」と入力して変換すると出てきます。
速度も本当は時速30キロで走っています。メーターはフォトショップで修正しましたw